2006.2.28(Tue)

ショップのワゴン車に乗り込んだ一行(ショップのSさん、Tさんと、ゲストのK、私)は西へと向かう。進行方向に富士が大きくハッキリと見えていた。さて目的地の大瀬崎は西伊豆のダイビングのメッカだが、人ごみを嫌うSさんはめったに選ばないポイントである。私が行ったのは2003年の7月と9月。7月は平日だった9月は台風接近中と、空いてそうなときばっかりだ。今回は快晴の週末だが、2月なのでやはり大瀬は空いていた。

伊豆の陸上は梅や早咲きの桜や水仙の花盛りですっかり春の気配だが、心配していた春濁りはまだ始まっていないそうだ。まだ水温は低いからかな? 「でも雨続きだったから、透明度はあまり期待しないでね」とSさんに言われ、セッティングをする。最初は1本目“湾内”、2本目“外海”のつもりだったが、Sさんの知り合いから「キアンコウがいた!」という情報が入り、急遽1本目が“先端”に変更となった。

静かさを期待してやってきた西であるが、やはり東風は強く、海面には白波が立っている。ちょっとドキドキ。Sさんに「さて今日の目標は何にする?」と聞かれるが、「目標はドライに慣れる!……いやマジで。まだ自信がないんですよー」と泣きつき、講習モードは勘弁してもらった。客が私ら2人だとSさんのブリーフィングもいい加減で「ここから入ってぐるっと回って出てくる感じ」って感じ。あのぅ…大瀬久しぶりなんですけど…潜降はどこから…?

ま、ついていけば分かるか。足元の石に足を取られそうになりながら、じゃぶじゃぶと海に入ってフィンをつける。「キレイだね!」とSさんが叫んでくる。そう、この日の海はとってもキレイだった。雨の影響などどこにもない。春濁りなどとんでもない。青く、抜けている。水面移動をしないまま、水深ががくっと落ちるところから地形に沿って潜降。キアンコウの目撃情報の位置がイマイチ特定できなかったので、「水深18mくらい」というのだけを手がかりに、その深さで行ったり来たり。

結局キアンコウは逃げてしまったらしく見つからなかったが、気持ちのいいダイビングだった。秋ほどじゃないけどお約束のキンギョハナダイの群はいるし、マトウダイもいた。中層にはメジナの群。いかにもクマノミがいそうなイソギンチャクの畑があったので探してみると、大きなクマノミがこっそり隠れている。Sさんによると「水温あがるまでもう少しだから、今が生き残るかどうかの境目なんじゃないの」とのコト。がんばれ〜。

深いところにいるうちは良かったが、浅瀬に移動するにしたがって、不安がこみ上げてきた。(やばい、ウエイト足りてないかもしれない…)。今シーズン、私はウエイトを重めにつけていた。今日も前回と同じで重めである。安定するハズだった。……が、この日私はインナーを多めに着込んでいた。おかげで珍しく寒さを感じていなかったのだが、6mを切る辺りからどうも体が浮き気味になる。エアを抜こうとしてももうエアがない。特に足が…。

体勢を変えて上半身にエアを持ってこようとするが上手くいかず、4mくらいでふあ〜っと浮き上がってしまった。ダイコンにはSlow表示が点滅している。ひーっ!と焦っていると、挙動不審なのに気づいたのか、Sさんが手を取って引き下ろそうとしてくれた。それでも落ち着かないので、Tさんが足を押さえにくる。「落ち着け、落ち着くのよTo-ko!」と必死で唱えたが、焦っているので足は吊るわ、レギュから水ががぼっと入ってくるわ、散々だった。

何とか降りたトコロから、海底の石にしがみつきつつ、ゆっくりと浅瀬に移動を再開する。えっこんな大きな石が!と思うくらいの石が簡単に浮いてしまうので、難しい。途中でSさんから「もういいから浮上」の合図をもらい、水面に出たがここからがまた大変。フィンが脱げずに片足でケンケンしているうちに、波と風とで浅い方へと運ばれ、立てなくなってしまう。何とか陸地に辿りついたときには私の息は上がりきっていて、しばらく喋れなかった。

昼食を挟んでの2本目は“湾内”。サービスから湾を挟んで反対側の突堤まで行き、そこから潜る。ここには手すりがあるし、突堤が風を防いでくれるので、エントリーは1本目よりもかなり楽だった。おっと私はウエイトを1kg増やし、更にルーズソックスを脱いだ。最近ダイビングとスキーを交互にやってるものだから、どっちでどんなインナーを着てたんだかごっちゃになって、ワケ分からないくなっているのだ。あんなに足が浮いたんじゃ堪ったものではない。

潜降した瞬間には「やっぱ湾内は濁っているかなー」という印象だったが、ちょっと沖へ出るととんでもない! 「こんな湾内は滅多にないよ」と後でSさんが言っていたとおり、20mという透明度だったのである。魚の種類も豊富である。コロダイの幼魚、タカノハダイの幼魚、ゴチ、ヤマトウミウシ。砂地ではトゲカナガシラ(最初はセミホウボウかと思った)がキレイ〜な胸ビレを広げている。まるで海老みたいな足はヒレの進化(退化?)したものだそう。コンディションのいい湾内ならではの講習を受けているダイバーが降ってきたりもしたが、海は最後までキレイだった。

ところでこの頃、私は切羽詰っていた。ドライにつきものの例の問題。そう、トイレに行きたくて仕方なかったんである。トゲカナガシラを見た頃にはかなーり行きたくなっていたが、潜水時間はもう30分になろうとしているし、だんだんと浅瀬に移動してもいる。もう帰り道なんだからガマン!(ガマンできなくなったらどうなってしまうの〜?)と思っていたのだ。そんなとき、ナゼか珍しく私の前にいたKに、Sさんが「寒い?」と聞いているのが目に入った。寒さに強いKはもちろん「大丈夫!」と返しているではないか!

なななななんてコト言うのあなたはっ! 大丈夫なんて言ったら、Sさんは浅瀬でのんびりしてしまうではないか。私は一刻も早く上がりたいのだ。人間の尊厳は守りたいのだ。さっきから(ドライでしたらどうなるんだろう…)って危険な考えばかりが浮かんでいるのだ。私はとっさにKとSさんとの間に割り込んだ。まずKに目線で「ヒドいよ!」と訴えかけ(後から「言いたいコトがテレパシーのように通じたよ」と言われた。水の中での意思疎通に問題のある私らであるが、必死こくと通じるもんである)、Sさんのフィンを引っ張って「寒い!!!」の合図を送る。寒いというよりトイレに行きたいだけなのだが、要は早く切り上げてくれればイイのだ。

Sさんにも必死さは伝わったのか「OK」と笑われ、なんとか無事に陸へとあがる。湾を横断してきた形になるので、トイレのあるサービスは目の前だ。Kの腕を掴んで「助けて…(←1人じゃスーツが脱げない)」とすがり、ダッシュで駆け込むトイレット。いつかこれで、ドライを引き裂きそうな気がする…。大人のおむつ導入を考えるべきであろうか(いやーん)。何とか間に合い、落ち着いたトコロで器材を片付け、東のショップに帰る。

ログ付けをして店を出た私らは、西に行ったにしてはかなり早い時間に、途中駅にと戻ってきた。ここで約束をしていたUと落ち合って夕食を一緒しつつ3時間以上も喋ったのに、それからKの家に泊まりに行くUに腕を掴まれて拉致られ(金曜日に誘われて断っていたのだが、Uがこの状態になってしまうと私のか弱い理性では太刀打ちできない)、結局私もKんチまで行って、日曜の4時まで語り合う。何をだか忘れたけど…。早起きしてダイビングして4時っちゃキツいよ、の週末だった。

今回のログはコチラ(147本目)とコチラ(148本目)。写真アリ。

2006.2.27(Mon)

25日の土曜日は1ヶ月ぶりに伊豆へ行ってきた。ダイビング仲間のYは海外旅行中、Uは思わぬ出費で財布に余裕がないとあって、結局Kと私のいつもの2人である。空は快晴。山並みが遠くくっきりと見えて気持ちがいい。伊豆に入ると、車窓に広がる海は凪いで穏やか―――……いやちょっと待て。沖の方は確かに静かだ。しかし波打ち際はけっこう激しくないか? 「強い東風」の予報が当たっているのか?

ともあれいつもの駅に着くと、ガイドのTさんが迎えに来てくれていた。「いい天気ですねー。晴れてよかった」と話をしていたら、Tさんが「実は昨日の夜、電話しようかと思ってたんですよ」と言い出す。前日の夜は、冷たい雨が降っていた。伊豆でも雨脚はかなり激しかったらしい。ショップオーナーのSさんとTさんは、土曜日の予約を入れていた客(=私ら2人だけ)に「雨がキツそうだけどどうしますか?」の連絡を入れようか、と相談していたそうなのである。が、どちらともなく「あの2人だったら雨でも来るよね…」となって、連絡しなかったのだと。あはは〜。

……SさんTさんは、正しい。Kとはメールで、25日に潜りに行こうかと相談をしていた。ただその具体的な日付が出たのは10日以上も前だったので、私はKに「じゃあ天気予報みて、良さそうだったら予約入れるね」と言っていたのである。そして先週火曜日。伊豆の予報を見ると、土曜日はしっかり雨だった。(……雨だ……でもここで潜っておかないと、次の週は月初で仕事がキツいし、その次の週は別の予定が……)。結局私は「雨だけど、25日でいい?」のメールをKに入れた。天気予報みるも何もないじゃん!

しかしこうゆうトコロで日ごろの行いがモノを言う。天気予報は見るたびに良くなっていった。雨から、曇り時々雨へ、そして曇りへ。金曜日には曇り時々晴れになっていて、朝になってみたら快晴だったのはさっき書いたとおりである。しかし風向きまでは変わってくれなかった。東伊豆の八幡野でダンゴウオを見たかったのだが、ショップの前の海は相当波が高い。「東はちょっとキツいですねー。今日は2人だけなんで、好きなトコロに連れていきますよ」と言われ、Kと相談の結果、西伊豆の大瀬崎を選ぶ。帰り道にUと落ち合う約束をしていたので、あまり遅くなりたくなかったのだ。

用意をしている最中に、ウェットスーツを買わなくちゃいけない(私の)って話になった。するとSさんが「あ、今すごく安く買えるところがあるよ!」とパンフレットを出してくる。新規参入しようとしてるメーカーだから、今だけすごくお買い得価格になっているんだ、と。「まぁ新しいところだから物は分からないけどね。とにかく安いし、パンフを見る限りデザインも豊富」と言われたものの、うーんでもやはり物を見られないのは不安だなー、と思っていると、「品質だけならオススメな店があるんだけどね」とSさんの台詞が続いた。や、やばいこの展開は。

何度も書くが私はセールストークに弱い。お買い得ですよって話よりも、いかにその製品が優れているかって話に弱い。多少高くてもいいものがイイかな、と思ってしまうのだ。Sさんの薦める店は完璧オーダーメイドのウェットスーツ専門店。そんなのさぞ高いんじゃないかと思ったが、デザインにそれほどこだわらなければ、手の出る値段である。「WorldDiveも質やデザインはいいんだけど、高いからね〜」。と、ところでその店は、何がいいんですか?

「縫製! とにかく縫製がキレイなんだよ。普通こんなトコロ見てないと思うけど(と、その店で作ったウェットを出してきて)、このラインがまっすぐでしょ。縫製がちょっとでもズレると、強度も保温性もがくっと下がるからね。縫い方の深さも難しくって、浅すぎると弱いし深いと突き抜けちゃうでしょ。ちょうど真ん中まで縫うって難しいんだよ。この店のはとにかく丈夫だから」。

初めてのウェットは4シーズンで裂けた。丈夫なら多少割高でも、結果的にはお得なんじゃないのか?―――Sさんの熱弁を聞いてる最中に、私の中ではもう言い訳ができあがりつつある。「あの、帰る前に値段とか詳しいコト、教えてください……とりあえず6月には欲しいんですけど、次に、3月に来た時に注文すれば余裕で間に合いますよね……?」。Kが(こりゃ買うな)って目つきで眺めているのを背中で感じつつ、私はガックリと項垂れていた……。だって自分でも(こりゃ買うな)って思ってしまったんだものー!

さて肝心の海の話も長くなるので明日につづく。

2006.2.24(Fri)

応援していた選手が金メダルを取ったのは嬉しいコトではあるが、やはり一言言っておきたい。今回に始まったコトじゃないが、オリンピック番組ってどうして日本人選手ばっかり映すのか。海外の事故で「犠牲者に日本人は含まれていません」と報じられると「外国人の犠牲者はどうでもいいのか」と思う陣営に私は属さないが(日本人犠牲者の親類縁者友人らは日本に在住している可能性が高く、その辺りをふらふらしてる知人が事故に巻き込まれたのではないかと心配する彼らに知らせるためには必要な報道であると思う。誰もが日程のハッキリ決まったツアーの旅行をしているワケではないのだよ。じゃあその辺をぷらぷらしてる外国人の知人がいる人はどうするんだって話になるが、そこまで言い出すとキリがなくって私ゃ知らん)、オリンピックでメダルを取った外国人はどうでもイイのかよーとは思う。日本人選手だけ、しかも同じ映像を何度も何度も流す暇があるんだったら、上位の選手を見せてくれ。生い立ちだの苦労話なんかオリンピック前に特番でも組んでやっておけよー。インタビューだって後でいいじゃん。試合中は試合を、ハラハラする展開を、いい演技を。

ところで今まであんまり好きじゃなかったスルツカヤ選手、ちゃんと見ると技の繋ぎ目がキレイねー。他の選手は技と技の間に「今、次の準備してますー」って時間があるんだけど、スルツカヤ選手は途中もキレイに見える。見直しました。さすが女王。あと前から思ってたんだけど、サーシャ・コーエン選手って体のバランスがどこか変じゃない? なのにどこが変なのかいくら見てもわからなくて、気になるー。でも顔はとっても可愛くて好みです。

2006.2.23(Thu)

あんまり熱心ではなくトリノを見ているが(今までのではスノボクロスとかいうのが面白かった)、女子フィギュアだけはちゃんと録画をしてチェックしている。私は荒川さんを応援しているので彼女のSPの好成績は嬉しい限り。村主さんの構成点はもうちょい高くてもいいよねぇ。あと安藤美姫ちゃんは衣装で失敗している。

さて先週末を寝て過ごし、先週も今週も会社と家の往復という虚しい生活をしているので、今日の話題もインドアで最近見たDVD感想3本分。まずは『ライフ・オブ・デビッド・ゲイル』。監督は「偏りのないように撮った」と言っていたけど、かなり死刑制度反対の方に振れていると思うのは私が反対派なせいか。ミステリ色が強いので、そのメッセージが前面に押し出されているワケじゃないけど。ところでケビン・スペイシーの、欲望(酒でも女でも)に引きずられる演技って、どうも苦手だ。

次。『下妻物語』。面白かった〜! 眠たかったので途中まで見て残りは別の日に…と思って見始めたのに、最後まで見た挙句に牛久対決からラストまでを3回くらい見直してしまったよ。予告編やってた頃に見た感じでは「あのロリータちゃんは好きになれないんじゃないか」と危惧していたけど、なかなかどうして魅力的。妙に覚めてるというか根性あるところがカワイかった。篠原涼子や阿部サダヲや生瀬勝久なんて好きな役者が出てるのも嬉しい。そして土屋アンナ。カッコよかった〜。ラストで深田恭子がキレるところ、彼女の演技は伝説のヒミコの娘を騙るにしてはちょっと迫力不足?(しかしそれを言うなら矢沢心も貫禄不足)って感じだったんだけど、その大ボラにノって「ねぇさん」と入ってくる土屋アンナが気持ちよかった。これは原作も読んでみたいが、「映画の方がいいから映画の後に原作読んだらガッカリする」って評をどこかで読んだから、どうしようかなーと迷い中。

最後に『オー・ブラザー!』。オデュッセイアを下敷きにしているそうだけど、教養のないワタクシは「えーっと……オデュッセイアってどんな話だったけ……」から始めなきゃなりませんでしたよ。けっこう冒頭で盲目の老人に予言される辺りで「あー…あのトロイア戦争の後になんでだか神の怒りを買って何年も家に帰れなかった男の話…? 家に帰ったら妻が再婚を求める男たちに言い寄られてて、成長した息子を間男と間違えるんだっけ…?(←なんか違うような気もするが)」と思い出したものの、見終わっても一つ目巨人の島と女に誘惑される島ぐらいしか分からなかった。あの洗礼の辺りも元がありそうだよなあ。

でもそれでツマラなかったかと言えば、そんなコトは全然なく。とても楽しんだ。寓話チックでどこか夢のようでミュージカルのよう。この映画の歌はどれもとても効果的で良かったなあ。見た次の日はずっと耳に残って、珍しくサントラが欲しくなったくらい。ジョージ・クルーニーはこうゆう、情けないけど憎めない役をやってる方がずっと感じがいい。最後の方で「監獄暮らし(だっけ?)」を歌うティム・ブレイク・ネルソンの声はとても好みだ。んでその後ろでひょこひょこ踊っているジョン・タトゥーロも、とてもカワイかった。

2006.2.20(Mon)

読書メモに書くには長すぎた感想2点(しかしメモもこの頃だいぶ長くなっている。ホント短文が苦手だよなー>オレ)。まずは田辺聖子さんの『花衣ぬぐやまつわる…… -わが愛の杉田久女-』。山田詠美さんの『Amy Shows』で興味を持った『ため息つかせて』(テリー・マクミラン)、『オサムの朝』(森詠)、『ぼくは勉強ができない』(山田詠美)と立て続けに読んできて、どれもそれぞれ面白かったのだけど、やはりその中で褒められていたこの本に関する感想だけは、賛同できなかった。

山田さんの書評を読んだときには、田辺さん得意の実在の人物をモデルにした伝記風物語なのだとばかり思っていたのだが、残念ながらこの本はホントの伝記である。杉田久女について今まで書かれた“物語”には嘘が多く、さんざ誤解されてる(らしい)から、田辺さんは杉田久女の“ホント”を書きたくて、だからあえて“物語”の形式を取らなかったんだとは思う。思うが、でも私は多少のフィクションがあったとしても“物語”が読みたかった。

“客観性”のある“伝記”を書こうとすると、どうしても描かれる人物たちとの間に薄皮一枚を感じてしまう。「こうゆう会話があったとしても不思議はない」「○○と思ったであろう」と書かれるよりも、「久女はこう言った」「こう思った」と書かれた方が、ぐっと身近に感じるではないか。この本の中でも一部物語調になっている箇所がある。戦後、久女が精神を病む辺りである。田辺さんもここで筆がノッたんじゃなかろか。私が久女やその夫、宇内に感情移入し、哀れを感じたのは、事実この箇所だけだった。

あとこれは好みの問題だと思うけど、田辺さんが語りなおした“久女像”は、私は好きになれない。―――つか、お友達になりたくない感じ。私はしなやかで強い、たいていのコトを笑い飛ばせる女性が好きだ。「真面目で一点集中型で情熱的に愛す」と言えば聞こえはいいが、裏返せば「融通がきかず広い視野を持てず独占欲が強く嫉妬深い」。田辺さん描く久女からは、後者の印象が強かった。そして「生き方が下手なひとだったんだなあ」と同情できるほど、彼女に寄り添って考えられなかった。―――この本が“物語”ではなかったから。

あともう一個。“伝記”にするならせめて写真を散りばめて欲しかった。そこに写真があるだけで、登場人物がぐっと身近に感じられるもの。とくにこの本みたいに「当時の写真を見ると……」という文章があるのに写真がないと、物足りなく感じてしまうよ。

*****

次。古処誠二さんの『少年たちの密室』。題名からして不安だったんだけど、読み始めた途端に「ああ今読みたい本じゃないかもー!」と思ってしまった。悲劇が起きるのがもう確定していて、そこに向かって不安感やら閉塞感がじわじわと高まっていくタイプの物語は、欲していなかった。悲劇があってもいい。でも何かしら光明の残る物語を! 絶対悲劇が起きると思わせておきながら、思いもかけないところで強さを発揮する人とかが現れて、崩壊を食い止めてくれる物語を! ご都合主義も理想主義も気にならなくなるくらい、気分を高揚させてくれる物語を! 「人間って素ん晴らしい!」と思わず叫んじゃうような物語を! 今私が求めているのは、そんな希望に満ちた物語。

―――と思ったところで「おやん? 私疲れてるのかしら?」と中断して、『パイド・パイパー』(ネビル・シュート)を読み始め、「そうそう、私が読みたいのはこっちの方だわ〜(すんごく静かな物語だけど)」と落ち着いて、睡眠もたっぷりとって、再度『少年たち〜』に手をつけたら、つるつると読めました。悲劇に立ち向かうには体力がいるってコトか。んで体力あるときにはこの本は、大したコトなかった。ヒドい話ではあるけど、謎解きの方に力が入っている感じだったから。

2006.2.16(Thu)

≪つづき≫

昼を食べた食堂の麺類担当の兄ちゃんの手際がやったら悪く、ただのラーメンなのに延々待たされ、「全然頭使ってない! 私なら半分の時間でできるね!」とぷりぷり怒っているのを「まぁまぁビールでも」と皆になだめられ、気を取り直しての午後はエリアを変えてダボスに行った。書きそびれていたが、私はこの菅平スキー場がすっかり気に入っていた。雪質がいい。広い。コースが豊富。幅があるので他の人を気にせず滑れる。

このスキー場のリピーターS井さんたちが「コースが短いのが嫌いな人はダメだけどね」と言っていたが、私にとってはそれもポイントのうちだ。リフトでやたら待たされるなら長〜い距離を滑れた方がいいけど、気になるほどの待ち時間じゃないならゴールが見えていた方がいい。ちょっとキツめの斜度でも「あそこまでガンバれば何とかなる」と思えるからだ。午前中の太郎エリアだけでも相当気に入っていたのに、午後のダボスエリアはパラダイスだった。

「うわー北海道みたい! 行ったコトないけど!」と思わず叫んじゃったくらいの、広々としたゲレンデである。天気も最高で遠くの山並みが美しい。今年は当たり年かしら。途中途中にとっても分かりやすいコース表示があるので、迷うコトがない。最初のうちは初心者コースや、かなり緩い中級者コースを滑り、最後の方には「上級者」とか書いてあるコースを滑る。でもここはゲレンデマップで見たら、中級者コースだった。私は雲さんが「傾斜が緩い」と選んでくれた辺りで、なんとか転ばずに滑りきる。

雲さんは誘導も上手い。この辺りになると雲さんの「できるできる」に抵抗しなくなっている私である。太郎エリアに戻ってすぐ、今度は正真正銘の上級者コースにまで連れていかれた。Kが「先に下りてTo-koの上達っぷりをビデオに撮るからねー」と行って勢いよく飛び出して行って、ちょっと降りたところで板が両方外れるくらいの大転倒。Kが立ち上がるまでは雲さんもちゃんと見守っていたが、見ていた私が動揺しちゃいかんと思ったのか、振り向いておもむろに「ああやってエッジ立ててると板がはじかれて外れるから」と言ったのがおかしかった。

さてこの急斜面を私がちゃんと滑れたのかというと、天辺からKが転んだ辺りまでの一番急なトコロは、滑り落ちました。滑り出してすぐに転んで、そのまま止まれずずるずるーっと回転しながら落ちまして。「ぎゃー、下まで行っちゃう〜」と思ったんだけど、止まってみると落ちたのは15mくらいかな? そこからほんのちょっぴり楽になっているので、「はい曲がって〜堪えて〜曲がって〜堪えて〜そうそう上手い上手い」とよちよち歩きの子供のように誘導されて、無事に下界まで辿りつく。最後に、一番初めに滑った初心者コースでダウンして、1日目のスキーは終了。よく滑った!

そうそう、杵さんは結局1日ダウンしていた。折を見て雲さんが電話を入れていたのに全然出なかった。いい天気なのにもったいない。宿に引き上げた私らは、風呂に入ってさっぱりしてから夕食。ちょっと休んだトコロで男性陣の部屋に遊びに―――つか、酒をご馳走になりに行く。Kが撮ったビデオの映像も皆で見た。めったに転ばないYもこの日派手に転んでいたのだが、決定的瞬間がちゃんと撮られていたうえに、その後の動揺しまくる彼女まで映っていて、大笑いした。そのうち親子孫三代での家族旅行中のS井さんチームの男性陣2人も遊びにきて、口当たりのいい日本酒を飲みつつだらだら喋る。私ら以外は走り屋さんたちなので、ときどき話題もマニアックで面白かった。

前の夜はほとんど寝ていないので、この日は23時頃で切り上げる。寝る前から雪が降り出していたが、起きても雪は止んでいなかった。土曜日の日中は8℃くらいまで温度があがったそうだが、この日、日曜は結局1日氷点下で雪も止んでくれなかった。2日目に行ったのは、ちょっと離れたパインビークエリア。杵さんもさすがに参加してくれたので、6人で揃って滑る。

杵さんも初心者だそうだが、なんせバイクでスピードには慣れているので、曲がれさえすれば早い早い。新品のカービングを買ってきていたので、曲がる方もバッチリだったから、とても追いつけたもんじゃなかった。このスキー場に対する唯一の不満は、パインビークエリアの大松山とつばくろ山を結ぶ連絡コース。「せっかくだから制覇しよう」と入ったのが間違いだった。ここは、歩くコースである。板の扱いに慣れていない杵さんと私は途中でリタイアして、板を外して担いで歩いたくらいだった。

それ以外は、この日も緩急取り混ぜた斜面を滑って楽しかった。なんとなくコブのある斜面の降り方も教えてもらったりも。急な斜面を恐る恐る降りた後の緩斜面が私は好きだ。上手くなった気になれるから。最初はドキドキしたけれど、久しぶりにカービングじゃないので練習できてよかった。最後は「もうちょっと滑りたかったなー」くらいだったが、昼過ぎに切り上げ、一度宿に戻って着替えをし、温泉に行く。この温泉も食事は美味しいし、露天風呂は気持ちいいしで、最高だった。

途中渋滞に巻き込まれながらも、横浜に着いたのは21:30くらい。思っていたよりも早く帰れた。今回は雲さん、村さん(書きそびれたけど、元気がよくて面白い女性。一緒にいてとても楽しかった! 大型を転がすというだけあって男前なトコが好み)、杵さんとちゃんと話せて、すごく楽しかった。コーチもありがたかったし、次はUも一緒に行きたいなー。とりあえず今シーズン、忘れないうちにあと一度滑っておきたいと、さっそく計画中なキリギリス。

2006.2.14(Tue)

家に戻るのが深夜続きなので、写真の整理に時間のかかるケアンズ旅行記がちっとも進みません。もっと時間を!

さて週末は、今シーズン2度目のスキーに行ってきた。友人Kから「バイク仲間のスキー旅行がまたあるんだけど、一緒しない?」というお誘いがあり、お邪魔してきたのだ。当初はK、U、Y、私のいつもの4人組全員参加のつもりだったが、先月Uが「仕事が入って無理…」と泣く泣く断念。一番面倒見がよくて私の滑りをきちんと見ていてくれるUの不参加に不安はあったが、残り3人で、ガンバってみるコトにした。

10日の金曜日、22時まで残業。24時の横浜待ち合わせにゾンビ状態で現れる私である。私たちを現地菅平まで運んでくれるのは、前回と同じバイク屋店長“雲さん”である。前回の八方尾根への旅行のときは、バイク仲間が10数人いて、そこに私ら4人がおまけでくっついていくような形だった。だから往復の旅と、食事を一緒にするくらいで、後は完璧別行動。ホテルの部屋も別だったし、なんせ人数が多いので顔と名前が全然一致していなかったのだが、雲さんの顔を見たらちゃんと思い出せてホッとした。雲さんの運転するワゴンに、私ら3人と“村さん”という女性(彼女もうっすら覚えていた)が乗り込んだトコロで、出発。

出した車が雲さんのお父さんのもので、あまりちゃんと乗っていなかったせいか、途中のサービスエリアでいきなりバッテリーがダメになるというハプニングがあったものの(給油所の兄ちゃんが「あー真っ黒じゃないですか。完璧腐食しちゃってますね」とバッテリーを取り替えてくれた。給油所のあるサービスエリアでダメになってくれて良かった〜!)、目的地直前で、居住エリアが違って別ルートでやってきた元・族の“杵さん”と合流。彼は印象が強かったので、一番ハッキリ覚えていた。

今回同行する6人(別に、S井さんという人も来ていたが、家族旅行だったので別行動)が全員揃い、ほぼ予定通りの土曜日早朝5時過ぎ、民宿着。後部座席でとろとろはしたものの、やっぱり眠い! 早朝着で部屋を使わせてもらうよう予約はしてあったので、部屋に入って8時の朝食までの短い時間、仮眠を取る。目を瞑って開けたら快晴の朝! 宿でレンタルスキーの手配をしてもらい、10時頃にスキーを担いで宿を出発する。5人で。女性陣の部屋はさっさと寝たのに、男性陣2人は寝る前に酒を飲んでいたらしく、杵さんは「午前中は寝る」とダウンしてしまったのだ。

ところで私ら、スキー場では前と同じように別行動だと思っていた。なんせレベルが違いすぎるのだ。一緒に滑っても、雲さんも村さんもツマラないに違いない(KとYには嫌がる私をスキーに引っ張り込んだ責任を取って、付き合ってもらうが)。そう思っていたのだ。ところがリフト券を買ったところで「どこから滑ろうか〜?」と言われ、大慌て。「いやいや私ら初心者コース滑りますから! どうぞ中級でも上級でも行ってください! お昼合流ってコトで!」と言い立て、一度は「そう?」と納得してもらったものの、リフトを降りて初級と中級が分かれるトコロで「やっぱり最初は初心者コースつきあうよ」と言われてしまった。

そこまで言われて断るのもナンだし、じゃあ一緒に滑りましょうとなったのだが、ここで私が宿を出たときから抱いていた不安は的中した。実は私、ずーっとカービング以外で滑ってなかった。人生初スキーの野沢と2度目の八方尾根以外ずっと、8回目の今まで、レンタルが全部カービングだったのだ。だから宿にもってきてくれた板がカービングではないのに気付いたときから、「これで曲がれるかなー」とドキドキしていた。Kは「同じだよ」と言うが、本当か?―――本当では、なかったのである。

基本ができてる人はいい。YもKも無意識に調節してるらしく「そんなに違う?」と不思議そうだったが、私はちゃんと基本ができないうちからカービングで甘やかされてしまったので、今までと同じような調子でやると、ちーとも曲がれない。いや曲がる方は初心者コースの斜度なら何とかなるのだが、スピードの調節ができない。スピードが出すぎてすっ転んで、腰をちょっと捻ってしまった。今まで変な転び方したコトなかったのにー。

見かねたのか、途中から雲さんがコーチ役を始めてくれ、まず姿勢から直される。結局この後もずーっと、雲さん村さんは私らと一緒に滑ってくれたのだった。特に雲さんのコーチは的確で、「たまには違う人に習うのもいいなー」と思わされた。普段UやKに言われていないトコロをアドバイスしてくれるので、彼の助言でやっと「ああ、Uが言いたかったのはこうゆうコトか」と得心できるところもあったりして、効果倍増って感じ。Kはさっさと彼にコーチの座を譲り、自分は記録係になってしまった。

ただしこの雲さん、気〜遣いのくせにアバウトなところが、友達なだけあってKにそっくり。「じゃあ次はこのリフトに乗って○○コース行こうか〜」「待ってください! ○○は黒! 上級者コースです!」「あ、そっかそっかー。じゃあ□□コース回って△△に降りようかー」「ちょちょちょっと! □□も途中から上級者コースで迂回路ないです!」。きっちりチェックを入れてないと、とんでもないトコロに連れていかれそうで気が抜けないのだ。

太郎エリアの初心者コースと中級者コースの一部を滑りつくしたところで、午前中終了。午後に続く。

2006.2.7(Tue)

ちょっと余裕あるなーと思って仕事を引き受けると、途端に急な仕事がどかどか入って首が回らなくなるのは私のサガなのか。という出だしで分かるとおり今日も仕事のグチですすみません。昨日までは「今週と来週は暇め」と思っていた。月初の作業も昨日までだった。そこで舞い込んだ某仕事を「余裕あるからイイですよー」と引き受けた。もともとある仕事と平行してやったら2週間くらいかな。適度な残業もできそうだって感じだった。

んで昨日は月初の仕事を片付け、今日。朝の時点では「午前中はほぼミーティングでツブれるからー、午後は4時くらいまでいつもの仕事やってー、あとは某仕事にも手を付けてみようかなー。余裕余裕〜」と思っていた。ミーティングの始まる前に、半日かかる仕事と1日かかる仕事が「今日中」で入った。午前中はミーティングでツブれるのに! 昼休みを半分返上していつもの仕事のうち、急ぎのだけを片付けていると、某仕事の絡みで「打合せに同席して」と言われる。これで午後の30分がツブれた。

戻ってみると書類作成数時間&外出半日って仕事のメールが入っている。さらにちょこちょこ頼まれごと。半日仕事を3時間で、1日仕事はズルをして(←残った仕事を隠して)5時間で。さあ後は全部後回しだ。もう23時だし帰ろう、としたら、また数時間はかかる仕事が! 呪い? 呪われてる? 某仕事(とりあえずの形を来週末まで)&その直し(月末まで)、外出(再来週前半まで)、隠した仕事(なるべく早く)、数時間かかる仕事(遅くても月末まで)、たぶんそろそろ入る大仕事、そこそこ量あるいつもの仕事。今月も、残業代は問題なく稼げそうです。―――はぁ……。

*****

■さて最近見たDVD感想*3。まずは『スパイキッズ2 失われた夢の島』。今回はジュニが活躍してて嬉しい。カルメンは相変わらずカワイイし、バンデラスは相変わらずバカっぽい。今回思ったんだけど、はっきりカラーの子供用秘密基地(しかもハイテク)、ハンバーガーとポテト、人工的に完璧管理された自然――というか自然の皮をかぶった人工物――の辺り、ディズニーっぽいよね。

■『エリザベス』。スコットランドのメアリ女王があまり好きじゃない反動でエリザベス一世を贔屓してるので、この映画も前に見ているのだが、当時はケイト・ブランシェットを個別認識していなかったので、もう一度見てみた。冒頭の新教徒が火あぶりにされるシーンを全然覚えていなくって、「あり? こんな血なまぐさいシーンを覚えていないなんて、見たってのは勘違いだった?」と思ったんだけど、そのすぐ後、エリザベスが一人踊るシーンははっきり覚えていたのだった。さすがガラドリエル様!(←違うって)。

物語が進むにつれ、彼女が初々しい表情をだんだんと失っていき、どんどん無表情に、冷酷になっていくのが、ツラい。髪を切り鬘をかぶって真っ白く化粧をした最後の顔なんで、グロテスクと言ってもいいくらいだ。あああんなに可愛かったのにー。しかし男性のちょうちんブルマーとタイツって服装も、ああも堂々と着られると許せるから不思議よねぇ。……ちゃんとそうゆうファッションをしてた時代があったんだから、許すも許さんもないんだけど。

■『ギャザリング』。一応ホラーなのかな? でも「ギャ〜ヒ〜ウァ〜グッチャ〜」なB級とは全然違って、雰囲気あって好き。「忘れ去られていた教会が発見される」ってので、さては一緒に封印されていたなにか闇のモノが目覚めてしまうのか…と予想していたんだけど、起きることは起きることで“ギャザリング”はただそれを見てるだけってのも、好み。寂しいのに必死で弟を守ろうとするエマは偉いね〜。あと特典映像の衣装の人が「“ギャザリング”の衣装はグレーだけ。彼らが集まっても色が無いんだ」と言ってるのを聞いて、なるほど!と思った。見てる最中は意識してなかったけど、だからなんだか浮かび上がって見えたのね。キャシーが彼らと並んで立ったときに「この展開でも呪いからは解放されないのか」とちょっとガッカリしたが、そうじゃなかったのも嬉しい。

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