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私の「心のミュージカル」(笑)

もともとはブロードウェイミュージカルですが、日本では松本幸四郎主演で1969年から時々上演されています。私が初めて見たのは1989年版。アルドンサ:上月晃、サンチョ:安宅忍、アントニア:春風ひとみ、家政婦:森公美子あたりはこの時の印象が強くて、どうも現在(2000年版)のキャスティングには違和感があります。ストーリーは完璧に頭に入っているので、是非一度英語バージョンをみたい作品。でも邦訳も上手くて、輸入ミュージカルにありがちな台詞・歌の不自然さは感じません。松本幸四郎の台詞が聞き取りづらい箇所があるとか、さっき書いたキャスティングの方が最近のより好きだとか、多少言いたいことはあっても、この作品に関する限り私にとってたいした問題にはなり得ません。

ミゲール・デ・セルバンテス作の分厚い「ドン・キホーテ」を読んだのは中学か高校生の時で、正直言ってその時はさほど面白い作品だとは思いませんでした。が、参考書に「ドン・キホーテ」を「騎士道を風刺した、騎士道物語のパロディ」とあるのを見て、それは違うんではないかい?と思ったのは覚えています。たぶんこれは、原典を読む前に「ドン・キホーテ」のイメージが既にできあがっていたせいだとは思います。原典を素直に読んだら「ラ・マンチャの男」にはならないでしょう。でも、私にとっての「本当のドン・キホーテ」はこのミュージカル「ラ・マンチャの男」なのです。

さて、このミュージカルの舞台は地下牢です。セルバンテスが教会に対する不敬罪で従者と共に投獄されるところから始まり、その地下牢の中で他の囚人たちを巻きこんで劇中劇、ドン・キホーテの物語を繰り広げるのです。セルバンテスが年老いた郷士アロンソ・キハーナを演じ、更にそのキハーナは自分が騎士、ドン・キホーテであると信じ込んでいるというややこしい設定で、どこまでが現実でどこからが芝居なのか、その境界はどんどん曖昧になっていきます。セルバンテスはキハーナを演じることで自分を語っているのですから、当然なのですが。そして地下牢という閉ざされた空間であるだけに、だんだんと熱気がこもっていって、舞台の空気はめちゃくちゃ濃くなります。これは舞台でしか感じられない空気であり、更にミュージカルだからこそ、ここまで熱くできるのだと思います。

この作品は映画化もされてはいるんですが、映画版ではこの作品のよさは分かりません。ソフィア・ローレンのアルドンサは迫力あって好きですけど。映画版では、たとえば獄中のセルバンテスがドン・キホーテの演技を始めたところで、実際にドン・キホーテの世界に画面を切り替えてしまいます。今まで牢の中のシーンだったのが、いきなりスペインのあの広い空と広く平らな茶色の大地に馬を進めるドン・キホーテの絵になってしまうのです。こんな広い空間を使ったら、あの牢獄内の濃縮された空気が四散してしまうじゃないですか。セルバンテスがドン・キホーテの演技にどんどん引き込まれていくところ、いきなり現実に引き戻されるところ、そしてまた自分の心情を語りながらそれがドン・キホーテにオーバーラップするところも映画では台無しです。「ラ・マンチャ」は舞台で見なくちゃダメです。

歌も有名な「見果てぬ夢」の他にも「アルドンサ」とか「小鳥よ小鳥」とか大好き。でも一番気分が盛り上がるのは「ラ・マンチャの男」の歌い出し。あまりにも思い入れが激しいのか「聞けよ汚れ果てし世界よ、忌まわしき巷よ♪」を聞くと反射的に泣けます。精神的に弱っているときは、オープニングにオケが演るだけでも、ドードー泣けてしまったりして。

ドン・キホーテの「最も憎むべき狂気は、ありのままの人生に折り合いをつけてあるべき姿のために戦わぬことだ」って台詞が大好きです。理想論だと思います?私は思いません。ま、現実家で最後までドン・キホーテを受け入れられないカラスコ博士も可愛いですけどね。「ジーザス・クライスト・スーパースター」のユダみたいで。でも現実のカラスコ博士組と仲良くなるのは難しいだろうなぁ。


2000年3月の惑星ピスタチオ解散後にもメンバーを変えて上演されてはいますが、ここに書くのは1996年版の感想です。これを見た時、私の中で主演の保村大和さんが不動の位置を獲得しました。

あまりにもベタなラインナップですが、私は「織田信長」と「土方歳三」にひどく思い入れがあります。歴史上の人物としてではなく、あくまでその「イメージ」が好きなので、生まれた年号とか実際にやったこととかを調べたり覚えたりするのには興味がありません。私の中の「織田信長像」と「土方歳三像」はもうすでに出来あがっていて、それに合致しない要素はたとえ史実であろうと「捨て」です。自分の考えている人物像と全然違うもの(例えば思いっきりコミカルにしたりとか)は別物として受け入れられるのですが、微妙にズレるものはもうめちゃくちゃ頭に来ます。

『Believe』の織田信長は、私のイメージにもろハマるものでした。物語は、未来の世界から「チャート式日本史」が織田信長の時代にやってくるところから始まります。これを明智光秀(佐々木蔵之助さん)が信長よりも先に手に入れてしまいます。一方は未来を知ってしまったせいで謀反を早めた光秀と、信長に恨みを抱き光秀に荷担する道糞(福岡ゆみこさん)チーム。それに対して信長と、羽柴秀吉(腹筋善之介さん)、森蘭丸(遠坂百合さん)チーム。この2つの闘いがあり、そして裏切りがあり、宣教師フロイス(平和堂ミラノさん)が絡んできて…とこれだけじゃよく分からないでしょうが、とてもよく出来た話です。伏線もきちんと張られていて見事。

佐々木さんの馬に乗るマイム、信長と対峙する時のミラノさんの強い演技、腹筋さんのパワーマイム、「憎き、憎き、憎き信長のためならば…」と笑みを浮かべて口にする福岡さんの凄み、遠坂さんの森蘭丸のけなげさ…。これらはピスタチオが解散してしまった今、残念ながらもう見ることはできません。この時の公演は一応TV放映されたのですが、その編集は舞台の良さを台無しにするもので、作品を切り裂いてズタズタにしてしまっています。

保村さんの信長だけは、まだ見られる可能性があります。ラストの「謀反の相手、仕ろうぞ」の時の信長は、カッコよすぎます。『Believe』の再演があったら、あのシーンのためだけにでも劇場に足を運んでしまいそうです。

でもやっぱりベストメンバーだった時のビデオを発売してほしいです。ビデオ買ってちゃんと再演も見に行くから。


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