ぷらぷらすTOPへHOME どろ沼TOPへドロ沼目次

最初に。マンガだと「このマンガ家さんの作品が全部好きー」って場合が多いので、少数の例外を除き、マンガ家さんごとにリストアップします。好きな順でなく書ける順で書きます。作品名やキャラクター名をばんばん出すので知らない人には通じないかも。知らない人ごめん。手元にない作品は記憶に頼って書くので、間違い見つけたら教えてください、知ってる人。文章の長さは愛情の深さに比例しません。…多分。では、どぞ。

桑田乃梨子さん

ほっと一息、桑田乃梨子。全部がそんな感じで読めるマンガで、何度読んでも飽きません。桑田ワールドはホントにどれもこれも同じ色をしています。話がマンネリってんじゃないんです。色が同じなの。彼女自身が自分のマンガを、「“終わらない放課後”みたいな感じ」だと、どれかの後書きに書いていたと思いますが、その表現がぴったり。話もほとんど学園モノだし…あれ? ひょっとして全部そうかも。学校の出てこない話なんかあったっけ…。桑田さんの描く学校シーン、友人関係はめちゃくちゃ好きなので構わないんですけど。恋愛モノでも、主人公には必ず仲良しの友達がついているのが嬉しいんですよねー。その友達との会話とか、クラス全員でワイワイやってる雰囲気は、他のマンガでは味わえません。…考えてみたらパターンが同じ話もいくつかあるや。でもいいの。どれも好きだから。

桑田さんの作品には、ドロドロした暗い部分はまったくないです。キャラクターは全般的にさばさばしてる。片想いしてみたり嫉妬してみたり元気なくしてみたりはするけど、暗くないのです。御堂くんとか卑劣大王みたいな暗黒キャラは出てくるけど、本人が楽しそうだから、それはそれでいいの。ただの個性です。さばさばの例を1つあげると、『月刊1年2組』の主人公、葵の親友のあんなの、中学時代のエピソード。あんなが「死んだらどうなっちゃうんんだろう…」ってコトばっかり考えて怖くて寝られない時代があった、って話なんですが、その話を聞いた葵は「そのとき知りあってなくて良かったよ」って言っちゃうんですよねー。“なんだか鬱陶しそう”とまで書いてあったような気もします。うーん、好きだなぁ。こうゆうムード。女同士の友情では、この葵ちゃんとあんなのコンビがダントツ好きです。…あ、『男の華園』の雪野と空美ちゃんも…。

魅力的な脇役(…と言っちゃっていいのかなぁ。主役じゃないけど主要キャラって多いんだよな)を言い出すとキリがなくて、『卓球戦隊』の悪になりきれない石黒くんや、めったに見られない笑顔が嬉しい桃子ちゃんなんか、お気に入りです。あ、無口な存在感の水野くんも好き。『男の華園』の汐里先輩は、かなりツボです。桑田キャラでしんみり「ああ分かるなぁ…」と思えるのはこの人だけかも。しんみりしないだけで、他にも好きなキャラはたくさんいますけど。『青春は薔薇色だ』の振られコンビ、北先生と尚枝ちゃんなんか主役の2人よりも好きでした。続刊の『人生は薔薇色だ』で主役になったときは嬉しかったなぁ。

忘れちゃ行けないのは手書き文字。桑田さんはコマ内によく、ちょろちょろっと手書き文字を入れているのだけど、それが妙におかしくて、よく声をあげて笑っちゃいます。主人公が狸の着ぐるみでぽんぽこって怒ってる絵の脇に、“あっ、怒りの狸と化している” “スタインベックね” “それはブドウだ”と書いてあったりするの。蛇神さまが学校で観察してるヒナ鳥を食べないと約束する「オレ、がまんするし、このへんの蛇にも言っとくから」と言ってるシーンでは、蛇神さまの絵の脇で、“えっ”“そんな!”って小さな蛇が2匹ショックを受けていたするの。モブが勝手に話を花を咲かせていたりもするの。ああ言葉じゃ説明できないよぅ。要するに、桑田さんのマンガは隅から隅まで、全部ちゃんと読まないともったいないのです。桑田さん自身、かなりマニアックっぽいので、元ネタわからない発言もときどき。わかると妙に嬉しかったり。

あとね『人生は薔薇色だ』で、北先生と結婚した尚枝ちゃんが女友達2人相手にノロケてた直後、急に北先生の気持ちを疑うシーンがあるのだけど、そこで不安がってる尚枝ちゃんに「大丈夫、そんなコトないって」となぐさめてる友人には“いい人”、「ああもうノロケたり愚痴ったり、あんたってワガママね!」って言ってる友人には“普通”と、矢印して書いてある、そゆトコロがたまりません。単行本の1/4スペースや巻末のおまけマンガも、作品そのままの味があって大好き。自分に突っ込み入れてるトコロは特に好きです。2002年2月現在のFavoriteは『月刊1年2組』。『青春は薔薇色だ』シリーズも捨てがたいんだけど…『男の華園』も切なくていい話だけど…あ、『卓球戦隊ぴんぽん5』も! ああキリがなーい!

このページのTOPへこのページのTOPへ

波津彬子さん

先に書いた桑田乃梨子さんの色合いが放課後の、陽が傾きかけてオレンジの色調が空気に入り込み、まだまだ明るいんだけど陽が柔らかくなった頃合いの色だとすれば、この人のはもっと遅く、モロ、逢う魔が時の色合いです。もうだいぶ暗くなって物の輪郭がはっきりしなくなり、木の蔭、人の影、自分の影にまで異形のものがひそんでいるように感じられる時間帯。どの作品にもその雰囲気があります。作品の時代設定も江戸末期〜昭和初期(の雰囲気)の印象が強く、人外の世界との交流を描いた作品も多いです。映画で言えば白黒映画のイメージ。あの時代の映画の女優さんって、ちょっと人間の種類が違うってくらいキレイに見えません? 波津ワールドは、現代モノでも現実とは1つ層が違うところにある感じです。外国ものも描かれてますが、やっぱり「古き良き〜」とつけたくなるムード。外国モノもセピアがかった映画のようです。

今現在一番長く続いているのが『雨柳堂夢咄』で8巻まで出ています。あとはシリーズでも2巻くらいで終わっているのが多いので、試しに読んでみるのもいいのでは。オススメは『異国の花守』2巻まで(これはまだ連載中かも。でも読みきり形式です)と、『お目にかかれて』か『パーフェクト・ジェントルマン』。どっちも1巻だけ。あ『雨柳堂〜』も最初の1、2巻は読みきり形式で描いてあるので、雰囲気味わうにはいいかも。それでいける、と思ったら『秋霖の忌』、『水に棲む鬼』。どこぞのレディースコミックに描いていたものですが、やっぱり波津さんは波津さんです。夫婦のすれ違いだの不倫だの、描く人によっちゃいくらでもドロドロさせられる話でも、波津さんが描くと現実とは薄い紗で隔てられているようで、サラリとしています。(…うーん、私レディースコミックに偏見持っているかしら。レディースだからって全部が全部、ストーリーがなくて組んずほぐれつしてばっかいるワケじゃないんですよね? きっと。)

読んでシアワセになれるマンガ、エキサイトしてしまうマンガ、感情移入してぼろぼろ泣いちゃうマンガ、ほんわかするマンガ……マンガの種類はそれこそ作品の数だけあるけれど、波津さんのは「しっとりした気分に浸れるマンガ」です。さて彼女の作品で、私が一番好きなのは何かと言うと…これ言ったら怒られるかなぁ…『日日平安−波頭涛子先生の日常−』なのですよ。これ、マンガ本体ではございません。単行本になるときに、巻末書き下ろしでついていくる、波頭涛子さん(=波津さん)の日常のエッセイマンガなんです。全部の単行本についてるワケじゃありませんが、入っていないとがっかりしちゃいます。こう書くと作品より巻末マンガが楽しいみたいだなぁ。そうではないのです。多分『日日平安〜』だけを集めて本にしても、ベストにはならないんです。本体のストーリーマンガでしっとり気分に浸って、最後にほんわか系の『日日平安〜』で締めてもらうって一連の流れが、とても気持ちいいのです。

彼女は金沢の方で、作品にもよく地元が出てきます。波津さんのファンになって以来、金沢は一度行ってみたい町になりました。波津さんが地元を愛しているのは作品を読んでいればよくわかるし、あの確固とした美意識を育てた町を、私もぜひぜひ見てみたい。古い町屋は少しずつ失われているそうだから、残っているうちに行かなきゃなぁ。

このページのTOPへこのページのTOPへ

山口美由紀さん

かなり昔から読んでますが、安定していてハズレのないマンガ家さんです。絵柄は可愛くて花は飛び星は踊る少女マンガの王道って感じ。でもそれがほんわかシアワセな彼女の作風にハマっているので、恥ずかしくなったりはしません。ファンタジー作品も多いのですが、現代モノもどこか現実離れしています。そこが好き。たいてい1人くらいは浮世離れした魅力的なキャラクターが出てきます。あんな可愛い絵を描くくせに、筋肉隆々のおじさんとかセクシーダイナマイツなお姉さんを贔屓して描いているのもイイ。ストーリーもただ「ほんわか」だけではなく、かなり複雑に伏線はってきっちり作ってあって、とにかく上手いです。

そして特筆すべき点。この方の描く、ヒネた(あるいは無器用な)キャラは天下一品です。自分の感情を素直に表せない、意地をはって「ごめんなさい」が言えない、やりたいコト・欲しいモノを口に出せない、そんなタイプのキャラクターを描かせたら、右に出るものはいませんね。断言。私が彼女の作品に最初にハマったのは中学生の頃、『V-K☆カンパニー』のときでした。このシリーズの中心は変わり者揃いのお騒がせ美術部で、主人公はその副部長の原田萌梨ちゃん。彼女は美術部で一番の常識派で、放っておくとトメドなく暴走してしまう部のストッパー役なのです。たしかシリーズの2作目に、彼女がそんな自分の役割で悩んじゃうエピソードがありまして、それがすごく当時の私のツボでした。

「例えば外でみんなで楽しく遊んでいる。そのうちに日が暮れて帰る約束の時間がやってくる。そんなときに『もう帰ろう、暗くなっちゃうよ』って誰かが言わなくちゃいけないのだけど、誰も言い出そうとしない。ホントは自分も遊んでいたいのに、でも誰も言わないから、いつも自分がその台詞を言わなくちゃいけない。…なんであたしばっか?」というのが萌梨ちゃんの不満で、その当時周囲に年下の子しかいなくて、自動的に「お姉さん」の役をしなくちゃいけなかった私の不満とちょうど重なって、そんな気持ちも知らずに「ノリが悪いなー」なんて言われてしまったときの、あのどうしようもない、やるせない気持ちとか、めちゃくちゃ共感してしまいました。

あとヒネたキャラと言えば外せないのが『朝からピカ☆ピカ』の天巡(あまめぐり)三兄弟の長男、宇(ひーくん)でしょう。この天巡家って親父は山口さんご贔屓の筋肉男だわ、長男はとってもわかりやすくヒネてて無器用だわ、次男の宙(ひろくん)もお調子者に見えて実は繊細な寂しがりやだわ、末っ子の空(ひろし)も天真爛漫キャラでありながら、それなりに悩んで憎めないわ…もう山口ワールドの集大成って感じです。ひーくん、ひろくんタイプに感情移入するのはいつものコトなんですが、感情だしまくりで単純坊主のひろしが一生懸命で、それも可愛くなっちゃう辺り、山口さんの上手いトコロだと思います。

唯一不満を述べるとすれば…山口さんの話ってけっこうパターンがありまして、好きなパターンなら何度読んでも飽きないので気にならないのですが、主人公の恋敵たちのパターンはあんまり好きになれないのです。『V-K☆カンパニー』の坂浦先生なんか卑劣大王で大好きなんですけど、そうじゃなくてもっと一生懸命な恋敵のパターンは読んでてツライです。「私と一緒にいてくれないなら手首切るわ!」って感じで迫られた主人公が、放っておけなくて構って、それが原因で好きな人との仲に影響が出てしまう…とゆうパターン。いろいろ事情はあるにせよ、こうゆう不毛な関係にはちっとも共感できないのですよねー。これさえなければ山口さんの作品に文句はないんだけどなー。まあ今でも大好きなんですが。

他の作品あげてオススメするなら、まず『おんなのこ季節』。タイトル同様、内容もいかにもな少女マンガですが、いいのよー好きなのよー。女のコたちがけなげで可愛いんだもの。それから『踊り場ホテル』。ほんわかでちょっと寂しく、でもシアワセなラスト。それから『ドラゴン・ナイト』。能天気なリンがとってもいい感じ。私ご贔屓のヒネキャラもいるしね。そして最後に『タッジー・マッジー』。今現在一番好きな作品。構成が見事。ベースは哀しく優しい話なんだけど、合間に入るコミカルなシーンにはホッとします。この緩急のつけ具合、シリアスとコミカルのバランスが上手いんですよね、この人は。そう、山口さんの作品には単に甘いだけのって少ないんですよ。ちょっと苦いものが混じっているので、それで余計に甘いシーンが効いてくる。あああと短編にもいくつか好きなのが…(以下略)。

このページのTOPへこのページのTOPへ

かわみなみさん

かわみなみさんと言えば、やっぱり『シャンペンシャワー』でしょう。1983年からLaLaで連載されていた、南米の架空の国エスペランサを舞台にしたサッカーマンガ。当時は今みたいにサッカーがメジャーじゃなく、このマンガでサッカーに興味を持ってもらい、1986年のワールドカップ・メキシコ大会を見て欲しいってゆう、かわみさんの目論見が連載の背景にあったようです。主人公はアドリアン・アレクシス、通称アドル。物語は彼が奥地からスカウトされF.C.ヴィトーリオに入るところから始まります。主要人物は同じチームの温和なキャプテン・ディッコと変人ジョゼ、宿命のライバルチーム・サルバドールF.C.のマルロとアンドレです。…や、ディッコは主要人物じゃないかもしれないんですが、でも個人的な思い入れが…。後で語ります。

サッカーマンガって言っても、努力!友情!青春!って類のマンガではないです。コメディです。なんたって試合中に秘技の応酬があるのです。仲間をバレエのように持ち上げる「秘技・リフト」(効果:届かない高さのボールに届く)とか、選手がずらっと並んで一緒に足を振り上げる「秘技・ラインダンス」(効果:誰が蹴るのかわからない)とか、チャージした瞬間に敵のウェアのパンツのゴムを抜き取る「秘技・赤い靴」(効果:サッカーでは手が使えないからパンツが押さえられなくて試合どころではなくなる)などなど。サッカー場ばかりでなく、選手をダメにしようと目論む敵チームの陰謀や祈祷師と闘ったり、スポンサーが押しつけた無理難題の強化合宿に挑んだりと、選手達も大変です。

でも完璧なナンセンスコメディなのかと言うと、そうではありません。試合シーンでも真面目な部分はすごく真面目に書いてますし、各選手の勝負に対するこだわりとか成長とか結びつきとか、めちゃくちゃ私好みです。笑わせといてほろりとさせられるのが好きなのですけど、これは読み返すたび、ほろりどころではなくてボロボロ泣きます。ラストが素晴らしいのですよ! …と、ちょっと先走っちゃった。忘れないうちに今イチの部分を挙げておきます。これはかわみさんの作品全般に言えるんですけど、恋愛の部分が今イチです。特にこの作品では、サッカーに対するこだわりと比べると、かなり見劣りがするのは否めません。ちょっと理屈っぽいのよね。でもいいんだ。だってアドルの恋愛は主要テーマではないんだもん。

この作品には、とにかく魅力的なキャラクターが多くて。主人公のアドルは才能があって一生懸命で可愛い、ま、マンガによくいるパターン。でも彼の成長ぶりはイイです。可愛いです。連載当時、最初に好きになったのは、顔はキレイなくせに性格が曲がっているエキセントリックな変態、ジョゼ。今でも好きなんだけど、でも物語が進むにつれ、私はマルロに心変わりしてしまいました。日記では「好きなキャラBest5」に入る、と書いたんですが、嘘。ダントツで第一位です。「好きなマンガは?」って問いには迷っても、「好きなキャラは?」って問いにはもう迷いません。マルロを語り出すと止まらないのですが、彼に対する愛ももう醗酵してるので許して。

主人公のアドルが18歳なのに対してマルロはもう28歳。選手の中では年を取っている方で、よく中年呼ばわりされてます。抜け毛も気にしていました。勝利への執着がモノ凄くて、勝つためなら多少汚い手も使います。その辺彼を崇拝する同チームの弟分、アンドレとは意見が分かれます。マルロにはちゃんと実力があるのだから、汚い手を使わずに正々堂々と闘う「王者のサッカー」をして欲しいと思っているのが、アンドレ。王者のサッカーをするには、自分には欠けている部分があるので、それを努力とか他の何かで補うのだ、と考えているのがマルロ。マルロがよく言うのが「俺はプロだ。プロは勝つのが仕事で、出るからには勝つ」。うひょーカッコいいー。おまけに時々口にする決め台詞がたまりません。

いきなりですが、私がこの世で最もキライなものの一つって、頭を使おうとしないバカなのです(勉強ができるできないの話ではない)。そして最も好きなのは、このマンガのキャラクターたちのような、ばか。5/10の日記で引用した大学教授、マーティン・ヘルマンの言葉の「愚か者」のコトです。例え結果がわかっていても、99%の可能性で負けが予測できても、残り1%に賭けて、自分の体も何も無視して突き進むばか。こうゆうタイプのばかって、最初は「何やってんの?」と思っても、徹底してるとめちゃくちゃカッコいいもんです。もう可愛くて愛しくて。で、このマンガにはそっちのばかが山盛りで出てくるのですよ。マルロも、アンドレも、アドルも、ジョゼも、そして、ディッコも。

ここでちょっとディッコに浮気。ディッコは穏やかで信望のある主将です。ヴィトーリオだけでなく、エスペランサの代表チームでも主将を務めてます。スマートな「王者のサッカー」をする億円プレーヤーで、フィールドでも指揮官であり、チームの要です。…この出来すぎとも言えるくらい出来すぎのキャラクターをどうして私が愛しているのかと言うと…彼がときどき、ナゼか主にマルロを相手に吐く決め台詞が、もろ私のツボを直撃するからです。特にワールドカップ出場を賭けた対ポルトフィーネ戦でのあの台詞。「わかってるだろ、バカだからさ」が圧巻。なんでこんな台詞がいいんだと思う方は、読んでください、わかります。マルロの「ディッコに迫られたら拒まないかもしれない」って気持ちがよーくわかります。

このディッコがカッコいいのがマルロといるとき、アンドレもカッコいいのはマルロといるとき、なんですねー。アドルも一番意識してるのがマルロです。マルロには「男のカッコいい部分を引き出す」ような、妙な魅力があるのですよ。実際男性ファンが多かったらしいし。最後の最後のエピソードなんか、もう主役食って中心になってます。泣かされるのは彼にです。ああもう上手く言えないのがもどかしい。あと、『シャンペンシャワー』の番外編に『ダイヤモンド・ガイ』とゆう、マルロとアンドレの若い頃の話があります。プロ入りしたアンドレが憧れていたマルロに会ってみると、彼は裏で八百長をしていて…とゆう、これこそマルロの魅力!って話なのですが、コミックスにはまだ収録されてないんですよね。残念!

最後に他の作品のオススメを。次に好きなのは『インナーカルテット』。これもかなりイイです。ほろりときます。その次は…『月明りの丘』と『ファン気いな親父』が同点くらい。次が『大喝采!』かな。最後のはやおい系入ってます。かわみさんらしさは健在ですけどね。

このページのTOPへこのページのTOPへ

清水玲子さん

とにかく綺麗な絵を描く方です。キレイ、じゃなくて、綺麗。「上手い絵」って言ってもイロイロありますけど、彼女の描く人物は美しい彫像のようで、少し冷たくて無機質な感じがします。それなのに体のラインは柔らかくて、長い手足が色っぽい。バレエがお好きらしく、そのせいか、筋肉をちゃんと描いてます。筋肉っても筋骨隆々の人じゃないです。…いや、そうゆうタイプも出てくるし、そうゆうのを描くのも上手いし好きみたいなんだけど、服の上から見ても分からないダンサーの持つようなしなやかな筋肉も描ける人です。ダンス好きだから分かるんですよ。彼女が力入れて描いた人って、いくら細くてもちゃんと筋肉がついてます。ダンスもののマンガで、ダンサーの筋肉の使い方がデタラメだと一気に醒めますもの。

それから「音のなくなる瞬間」を感じさせるのが上手いってのは、忘れちゃいけない。映画ではよくありますよね。大事なシーンで不意に音がなくなって、だからこそ映像がより鮮明になり、音を<静寂>で際立たせるっての。実際の音声を入れるより、想像に任されている分だけ、クリアな効果的な音が聞こえるような気になります。清水さんが上手いのは例えば、落ちていく人を助けようとして手を伸ばしたのに、ほんのちょっとの差で届かなくて、一瞬時間が止まる瞬間。助からない、と気付いた人の表情が眼裏にしっかり焼き付いてしまう瞬間。あるいは緊張で真っ白になって、自分の心臓の音以外は、何も聞こえなくなってしまうような、そんな瞬間。あるいは怒りのあまり、視界が赤にそまって、何も考えられなくなってしまう瞬間。もともと音のないマンガで、そんな表現をできる人は他に知りません。ピンとこない人は『MAGIC』を読んでください。

ストーリーも大きなハズレがないです。『竜の眠る星』全5巻、『月の子−MOON CHILD−』全13巻、『輝夜姫』現在19巻(連載中)と長いシリーズもありますが(しかもどんどん長くなってゆく…)、彼女に関しては不安はありません。ほら「こんなに物語広げちゃって大丈夫かよ」っての、あるじゃないですか。彼女ならどれだけ大風呂敷を広げても、最後にはしっかり畳んでくれるだろうと信頼してます。しかも最後がスゴイんだ。短編や単行本1冊の長さの中編も、無駄がなくてキレイです。いや…短いのイイじゃなくて、むしろ短い方イイですね。私の好みでは。前述の『MAGIC』とか『22XX』なんか、大好き。

『22XX』は最近まで私の中で「清水さんの最高作品」でした。彼女の持ってるジャック&エレナってロボットシリーズの…番外編になるのかな。エレナと出会う前のジャックが主人公です。エレナに振り回されっぱなしのジャックが、この作品ではシリアスに徹してます。最後に森が焼け落ちて、観覧車の残骸が現れるシーンは素晴らしいです。『竜の眠る星』で、女王が娘を引きずって階段を登るシーンと同じように映画的で、美しくて、悲しいシーン。で、最近『22XX』の座を脅かしているのが、『秘密−トップ・シークレット−』って作品です。死んだ人間の脳を読む…死んだ人間が見ていた映像を視覚化する、という設定が、清水さんの作風・雰囲気にぴったりで、彼女独特の世界を創りあげてます。特に1作目の大統領の話のポイントが高い。2作目より断然いいです。シリーズで続きそうなので、1作目のレベルの話がもう1本でもあったら、『22XX』を追い落とすかも知れません。

難を言えば1作に1人くらい、私のキライなタイプの人間がでてくるところでしょうか。善意はあるんだけど、常識や先を予測する力がないために空回りして、結局人に迷惑をかけるタイプとか、とにかく欲望がハッキリしていて、目的のものを得るためには何でもする…好きな人を離すまいと手首を切るようなタイプ。具体的に言うとジャック&エレナシリーズのエレナ、『月の子−MOON CHILD−』のベンジャミン、『輝夜姫』のまゆ。エレナは好きな部分もあるので微妙です。んー、でも登場人物の1人が気に入らないなんてのは、人物の書き分けができてりゃ当たり前でしょうし、それでストーリーが台無しになったりはしません。キライな人より好きな人の方が多いですもん。切ない、苦しい話が多いですけど、最後に希望が残るコトもある(笑)し、ぜひ探してみてください。(注意:『22XX』や『秘密』の2話目は、人によってはダメかも。食人と快楽殺人が描かれてるので、グロいです。)

あ、あと番外編。ダイビングに興味のある方には『ナマケモノのスキューバダイビング』をオススメ。体験エッセイマンガ。1998年の作品なので情報源としては役に立たないかもしれませんが、清水さんがダイビングに出会ってハマッていく様子が笑えます。

このページのTOPへこのページのTOPへ

田村由美さん

私の好きなマンガ家さんにしては珍しく筆が早く、コミックスがばんばん出ます。で、その分、当たり外れが大きい。私が好きなのは『ちょっと英雄(ヒーロー)してみたい』辺りから始まる系統。『巴がゆく!』や『BASARA』がそうだと思ってます。『女神が落ちた日』もそうかなあ。あと『X-DAY』のような、怖い話も上手い。好き。ダメなのは『BOX系!』とか『Hearts灰とダイヤモンド』とか『龍三郎シリーズ』の一部(これはイイのもあるんだけど…)。あ、『のーこシリーズ』も好きな方に入ってます。

田村由美さんは、とにかくハッタリの人で…“ハッタリ系”といえば私の中では彼女か樹なつみさんかって感じなのですが、田村さんのハッタリの方が私好みです。ときどき「おいおい、思いつきで描いてんじゃないか」(←失礼な…)と思うくらいだけど、でもその思いつきとハッタリが上手い具合に結びつくと、そりゃもう効果的にドラマティックなのですよ。惹き込まれます。だから話も、日常モノより大掛りな大河モノが良いですね。国家の陰謀とか、日本滅亡とか、国づくりとか。今連載中の『7SEEDS』もなかなか設定が素っ頓狂なので期待してます(TV番組の『サバイバー』見て思いついたんじゃないの?と疑ってるんですが…)。それにしても田村さん、虫が好きなんでしょうか。虫の大群に襲われるシーン、妙に力が入っている気がします。あ…虫にしろ前述の『X-DAY』にしろ、彼女は生理的嫌悪感をかき立てる描き方が上手いってのも言えますね。

何せ“ハッタリ系”なので、恋愛も激しいです。物陰からこっそり見つめて頬を染めたり、届かぬ想いに涙したりはしません。運命的な出会いをして燃え上がり、周囲を巻き込んで大騒動、死ぬか生きるかの大決断を迫られ、そのプレッシャーの中で命懸けの愛を貫くのです! …すいません、ちょっと嘘。ほのかな恋愛もありますホントは。だけど印象として派手なのですよ。泣くときは必ず号泣!みたいな。キスシーンでは必ずバックに花火があがってる!みたいな。女の子もたいてい強いしねー。肉体的にも精神的にも。恋人が死にかけてると「私を置いて死ねるものなら死んでごらん!」とか言っちゃうの。しかもそれで相手が生き返るの。根性で。あはは。…でも、はい、それが好きなんですゴメンなさい。

代表作はやっぱ『BASARA』でしょう。8年に渡って描かれた大河ドラマンガで、全27巻。私は雑誌掲載時から読んでたので、続きが待ち遠しくて…。朱理(主人公の恋愛相手)の正体がいつバレるのか、バレたらどうなるのか、とドキドキしながら続きを待ってました。最初は親の敵討ちと仲間の奪還…という目的しか持っていなかった主人公が、仲間と出会い、「運命の子」に期待される役割に乗るコトによって、どんどん目的を変え大きくなっていく…。正に大河ドラマにふさわしい展開で惹きこまれました。仲間たちがまた魅力的なのです。主要人物だけでも何十人もいるんだけど、どれもキャラが濃くて、ちゃんと書き分けられているので、ごっちゃになったりしません。敵方にも魅力的な人物がいるし。誰かを彷彿とさせる登場人物や、どこかで聞いた覚えのあるエピソードなんかはあるのですが、でもそれらを紡ぎあげて、一つの物語を作った手腕はさすが! …ああ、語りきれないや。読んでください。できたら集中して。

上に書いたように、当たり外れはあります。『BASARA』後の連載は、正直今イチぱっとしません(こっちの期待が高くなったせいもあると思う)。けど、これだけのものを描ける人なので、きっとそのうち面白いのが出てくるんじゃないかなー、と、私は期待しています。とりあえずは連載中の『7SEEDS』に、ね。

このページのTOPへこのページのTOPへ

日渡早紀さん

この人もかなり昔から好きでした。雑誌でリアルタイムに読んでたのは『アクマくんシリーズ』の頃。『アクマくん』でハマって、遡って『早紀シリーズ』を読んで…。『アクマくん』の後が『ぼくの地球を守って』になるのですが、連載開始と同時に絵柄が変わってしまったのにショックを受け、最初のうちは『ぼくの〜』が好きになれませんでした。残念ながら『ぼくの〜』の後の作品はピンと来ないのですが、昔の作品は今読み返してもやっぱり面白かったので、順番に書いてみます。

まず『早紀シリーズ』。ちょっと不思議体験も入る学園モノで、デビュー作がシリーズ第一話。作者と主人公が同姓同名だったり、天文好きの主人公のボーイフレンドが「星野くん」だったり、今読むと「ふっるーっ!」って感じです。彼女のマンガは古くならないタイプではないんです。でも、ストレートすぎるわ一生懸命だわ読んでて恥ずかしくなる台詞もあるわなのに、「古くてダメ」にならずに「古くて愛しい」になっちゃうのは、昔の思い入れのなせる業でしょうか。あと久々にこのシリーズを読み返してびっくりしたんですが、「人は何のために生きるべきか」に代表される難しい問いに対して、私がぼんやりと抱いている答え…このシリーズにずいぶん影響受けてます。作品にハッキリ描いてあるワケじゃないんだけど、私が勝手に受け取ったメッセージというか作品に刺激されて考えたコトというか…それが、私のかなり芯の部分にあるみたい。いやー私の原点ってあちこちにいっぱいあるなぁ。(それは果たして原点と言えるのか?)

次に『アクマくんシリーズ』。これも人気ありました。日渡さんは『ぼくの〜』のときにも転生ブームだか前世ブームだかの大騒動を巻き起こした人なんですが(笑っちゃうけど「フィクション宣言」までしたのよー)、このシリーズでも主人公のアクマくんを挟んでの恋敵同士、チャチャ派とアシャ派に別れてファンは喧喧諤諤してたもんです。ひゃー懐かしーっ。単行本も7冊出てるし、かなりの年数に渡って書かれただけあって、このシリーズで日渡さんは化けた感があります。ただ天使だの悪魔だの魔界だのって今読むと手垢がつきすぎた感じがしちゃって、読み返しても当時の気分には浸れませんでした。でも昔から相も変わらず私はシヴァ派! チャチャもアシャもどうでもいいけど、とにかくシヴァ! 彼がシアワセなら何でもいい…って気持ちは、蘇りましたけど。それと、このシリーズ、完結してないんですよねー。完結編はもう描かれないだろうなぁ。

ちょっと戻って『記憶鮮明』。単行本1冊だけで、中に近未来サスペンスの『記憶鮮明』とその後日談『そして彼女は両目を塞ぐ』が入っています。両方とも映画チックになるように意識した描き方で、かなり勢いで描いてる部分もあります。後の日渡さんの作品ほど完成されてない。でも私この『そして彼女は〜』がすごくすごく好きでした。まずタイトルがイイ。次にタイトルがイイ。最後にタイトルが…ってあれ? 何がそんなに好きなんだろう…? 雑誌でも読みきりか前後編での掲載で短い話です。なのに何か心に残るのは、台詞の流れとかちょっとした言葉の使い方が印象的だったから…かな。あの、サングラスを何度も落としてしまうシーンは名シーンだと思います。『記憶鮮明』は記憶鮮明・東京編…つまり『ぼくの地球を守って』に続きます。同じキャラクターは出てきませんけど。繋がりは「記憶」と…「ESP」?

さていよいよ有名すぎる『ぼくの地球を守って』。これにはホント、ヤられました。ほのぼのっぽく話が始まったのに、どんどんどんどんツラくなっていって「ああ、お願いだからシアワセにしてやってくれよう(輪くんと紫苑さんを)」と続きが出るまでが待てなくて。いわゆる転生モノなんですが、前世の記憶を取り戻すコトへの恐れとか、前世の記憶に振り回される様子とか、幼い輪くんだけがどんどん取り込まれてしまうトコロとか、とにかく心理描写に説得力があって…(だからあれだけ大騒動になったんでしょうね)。その後粗製濫造された前世モノ・転生モノとは一緒にして欲しくございませんわね。あとのがヒドすぎるからジャンルだけで萎えてしまうってのは、アクマくんの世界も同じで、残念です。

『ぼくの〜』は哀しい話です。主人公たちの前世の異星人たちは、誤解に誤解を重ねて最後までわかりあうコトがないまま、その生を終えてしまいます。だからこそラストの紫苑と木蓮の開放に泣けてしまうのだけど、でもやっぱり生きているうちに心を通じ合わせておくべきだった。転生した主人公たちは前世の性格も持っていますが、やはり少しずつ違っていて違う関係を築くコトができる。それが救いなのです(主人公たちのうちの2人が「お前、前世とはちょっと違うな」と言いあうシーン、好き)。現世の迅八はイイけど前世の玉欄は大大大大大っキライだーっ。一部に嫌われていた春彦は、私はけっこう好きでした。輪くんと紫苑さんは別格。…と、キャラ語りを始めるとキリがないのでそろそろ止めます。

そのうちまたツボにハマる作品を描いてくれるといいなあと願いつつ。-2003.01.09-

このページのTOPへこのページのTOPへ

佐藤史生さん

いきなりですが、私の中には“70年代フェミニズム作家さん”で括られるカテゴリがあります。ホントに70年代にデビューした人なのか、フェミニズム作家と呼ばれる人なのかは知りません。自分でも明確な定義は示せません。が、具体的に名前をあげるなら、マリオン・ジマー・ブラッドリー、アン・マキャフリー、アーシュラ・K・ル=グウィンあたりです。何となくお分かりでしょうか? どこが、というのは難しいのですが、私はこのカテゴリの作家さんの作り出す世界が好きです。そして私の好きな漫画家さんたちの中でただ一人、このカテゴリの作家さんたちと同じ匂いがするのが、佐藤史生さんなのです。

……うーん、こう書いて拒否反応示されると困るなあ。私の知る限り、彼女が「これはウーマン・リブ的意図で書いた話です」と明言しているのは、かなり古い作品である『ふりかえるケンタウロス』一作だけです。んでも、その意図は分かりづらい。言われてみれば確かにそうゆう話なんですが、どこがそうとは説明しにくいです。『アレフ』や『タオピ』の方がそれっぽく思えるんだけど…。それとか最近の『バビロンまで何マイル』とか。あ、要するに“フェミニズム”と言っても「女の自立!男と同じ権利!」とストレートに声高に訴えてるばかりじゃないってコトです。それより「性というモノによって枠組みされない」コトを志向してる感じかな。先ほど名前をあげた作家さんたちも、佐藤史生さんも。ちなみに『アレフ』と『タオピ』は原作つきの話ですが、佐藤史生さんカラーにしっかりなっていて、彼女の作品の中でもかなり好きな方です。特に『アレフ』の女性たちはたくましくて強かで好き。

ちょいとズレた話を戻します。佐藤史生さんが上手いのは、コンピュータとファンタジーの融合です……って、あれ? それってSFって言うのかな。うん、多分、カテゴリ分けするならば、佐藤史生さんはSF作家になるのかも知れません。近未来ものとか殖民星ものとか多いし。あ、殖民星もので、移住してきた人間たちがかつての地球の文明を切り離し、独自の文明を築き上げる(=ファンタジーor神話チックな世界ができる)ってのも、マキャフリーやブラッドリーと共通ですね。『金星樹』『夢みる惑星』『阿呆船』『羅陵王』『やどり木』『チェンジリング』『心臓のない巨人』辺りがこの系統、かな。複合船ものも好き。

佐藤史生さんの魅力を文章で語るのは難しいです。……そこはかとない不安感。混沌。残酷さと優しさ。救い。押しつぶされて変形してしまうヒト。開き直った人のたくましさ。突き放したかのようで、優しい目線。雰囲気のある古めかしさ。……思い浮かぶイメージを並べ立てても、なにか違う、いや、なにか足りない気がします。図太いキャラクターはホントに図太いしねー。地に足のついた人のたくましさも特筆ものだけど、繊細な、精神世界に生きてるっぽい人が腹を決めたときの飛躍の仕方もまたスゴかったり。

代表作といえば、やっぱ『ワン・ゼロ』かな。1984年から連載が始まった、1998年の東京を舞台にしたこの話を、私は雑誌掲載時にリアルタイムで読んでいました。今読んでも面白いんですが、連載当時はすごく新しかったんじゃないかなぁ。正直当時は理解できない部分も多かったんだけど、でも「なんかスゴイ。面白い」とは感じてて、そのときから現在まで、ずーっと好きなままです。神と魔(大陸から駆逐されたかつての神々)との対決の話ですが、中心となって話を進めるのは少年少女(…と書くと佐藤史生さんの書くキャラクターからイメージがズレるなあ。彼らは純粋な人間でもないし。魔だったり、世界を救済するアートマンの片割れだったりします)たちと、魔のルシャナ、そして忘れちゃいけない自力学習型コンピュータのマニアック!です。このマニアックが私は好きでねぇ。可愛いの。彼(?)に入れ込む天才ハッカー、アキラの気持ちは分かる気がします(そしてラスト近くでは彼と一緒に落ち込んだもんです……)。

うん、このシリーズの登場人物はみんな好き。トキもエミーもアキラもミノルもルシャナもマニアックも摩由璃も目弱も。私のツボを突く台詞を吐くのはルシャナであるコトが多いけど(日本の土着神を前にしての大演説とか)、メンバーの中ではあまり見せ場のないエミーが、私はナゼかかなり好きです。彼女は“地に足をつけてる”キャラクターの代表格だと思う。彼女も“魔”なんですけどね。でも地に足がついた“魔”なの。他の面子も、スゴイ闘いしながらも高校生で、佐藤史生さんの描くそうゆう人間たち(←だから人間じゃないってば)が好きです。「七生子」シリーズの七生子なんか、ちょっと理想のキャラクターだしね。「透明くらぶ」シリーズの倭を始めとする学生たちも好き。

んでも一番好きな作品は?と聞かれれば、『ワン・ゼロ』の続編にあたる『打天楽』と、最上清良シリーズの『青猿記』を挙げますね。どっちも『ワン・ゼロ』や『夢みる惑星』のように壮大ではなく、小粒の作品なんだけど、なんか好きなの。あ、それにどっちも≪自力では脱出できないトコロに閉じ込められてしまった人を引っ張り出しに行く話≫ですね! 今気付きました。『打天楽』は『ワン・ゼロ』を読んで人間関係把握してないとわからないと思います。『青猿記』はどうだったっけ……。ま、作品発表順に読むのが無難ではあります。はい。寡作なだけあって、大きなハズレのない作家さんです。最近のものを読んでもムードはあまり変わってないので、このままのペースでいいから、ずっと書き続けて欲しい。そう願ってやみません。

-2004.07.30-

このページのTOPへこのページのTOPへ

Belneさん

Belneさんといえば『蒼の男』シリーズを抜きにしては語れません。Belneさんといえば『蒼の男』、『蒼の男』といえばBelneさん、なのです。 『蒼の男』シリーズの巻末で、坂田靖子さんや佐藤史生さんが声を揃えて「作品の出来がどうこうという以前に、作者の“描きたい、描かずにいられない”という情熱が、読者をも巻き込んだ作品」と評していらっしゃいますが、私もその分析には極めて同意です。だって私も巻き込まれたんですもん。もともとちーっとも好きじゃない絵柄なのに。最初のうちは「こんな腺病質な絵柄イヤだ」と思っていたのに。巻き込まれたらもうこの絵じゃなくちゃダメ!なのです。ガーディーの目がセクシー、スタンのタレ目がたまらーん、トニーのヒゲが色っぽーい、となるワケです。

絵がキライで最初は敬遠していたのに、読んでみたら作者の愛情に巻き込まれてとっても好きになっちゃった……というのは、この作品と、獸木野生さんの『パーム』シリーズだけですね。作品を読んで、「この人の中では登場人物たちが生きていて、作品には出てこない日常シーンを繰り広げているんだろうなあ」と思えるのも、この2作だけです。ただ、獸木さんの方が理性的な感じがします。パームが獸木さんのライフワークで、それを描くのが必然だとすれば、『蒼の男』は描かずにいたら死んでしまう、情熱のはけ口という感じ(←あくまでそういうイメージを受ける、という意味ですが)。自分が生きている間に作品を仕上げるために予定をたてて調節するってのは、Belneさんにはできそうもありません。

それではどんなシリーズなのかといえば。1970年代〜80年代にロンドンを本拠地に生きた男たちの話です。女はほとんど出てきません。父親に無理心中をさせられそうになって、そのとき撃ちこまれた銃弾の破片が脳に残っているベルネ。彼が生存しているのは奇跡で、数年先の死が確定されています。そしてベルネの声に惚れ込んで全面的なバックアップをするスター、ガーディー。やはりベルネの存在にどうしようもなく惹かれる画家アルドゥ、の、3人が中心となっています―――が、私の中での重要度からいくとガーディー>スタン>ベルネ含む他の登場人物たち>どうでもいいキャラ>アルドゥです。アルドゥはベルネの運命の相手だそうですが、私にとってはどうでもイイ。つかあまり好きじゃない、よくわからない人です。

ベルネが登場したとき、ガーディーはすでにスターでした。出すアルバムは必ずランキングのトップ、世界ツアーをすればチケットは即ソールドアウト。人を惹きつける美貌と雰囲気の持ち主で、特技はハッタリ。ハッタリで大衆を熱狂させ、そしてそのハッタリを現実にできる力を持つ、選ばれた人。生きているうちに伝説となる人です。その彼がベルネに出会って、自分はバックアップにまわるのね。ベルネの寿命が短いのを知っているから、ベルネが生きているうちにベルネの音を世界に知らしめることを選ぶワケです。

そしてガーディーがベルネに賭けているのと同じようにガーディーに賭けていたのが、ギタリストのスタン。若いときから老け顔の苦労人です。彼はガーディーに出会って本気になった人ですので、ガーディーが脇役にまわるのは面白くない。ベルネの声は評価しているけれど、彼にとってあくまで主役はガーディーであるべきなんです。んで私もガーディー好きってトコロでスタンに共鳴しちゃうので、ガーディーが事実上の引退なんかしちゃうと面白くない。ベルネのサポートもいいけど、自分のアルバム出そうよ!とスタンと一緒になって文句の一つも言いたくなります。

まぁこんな人たちがピリピリした崖っぷちの人生を繰り広げているのが、『蒼の男』シリーズです。若かりしガーディーやスタンの兄のサデ、ガーディーの息子などが主役となるサイドストーリーも数冊出ています。が、もともと同人誌だけあって本っ当〜に手に入りません。私も『蒼の男』シリーズはSG企画から商業ベースで出されている8巻までしかしか持っていません。『キャバレ』の先を出してください>SG企画!!! 引退したガーディーが復活するってホント? んでベルネがガーディーに愛してるって言うってホント? アルドゥが運命の人だってのはガーディーの勘違いだったの? とても好きだけど愛してないとか言ってなかった? でもその選択は正解よ! ああ読みて〜〜〜〜。

……失礼。つい理性が飛びました。という風にひりひりしているのが本編なのですが、パラレルワールドかと思うくらいにほのぼのしているのが『ロンドンの佳き日』シリーズです。こちらは年代的にいえば私が本編で読んでるずっと先の話になります。ベルネが放浪して戻ってガーディーと猫たちと暮らしをしている日々を描いた作品です。……が、私は住んでる場所や飼い猫がいるいないなど矛盾点が出てくるのを無視して、このほのぼのした生活は本編の合間合間に挟まれるモノだと思いたい。本編で語られるギリギリの日々の合間には、こういった穏やかな日々があったのだと思いたい。こちらではベルネの寿命についても、頭に残る銃弾についても触れられるコトはありません。本編よりも好きなくらいの『ロンドンの佳き日』ですが、でもやっぱ本編があるからこそ面白いんだろうな、これは。

あ、あと完璧なパラレルワールドものとして、豆腐屋のガーディーと兎のアルフレッドがラブラブな生活を繰り広げてるシリーズもあります。シリーズといっても多分まとまって本にはなっていなくて、『蒼の男』の巻末に1〜2編ずつ収録されたりしています。これも好き。『蒼の男』シリーズでいい味出してた詩人のトニーは本編では北海で溺死してるんですが、なぜかその後、たぶん同じようなパラレルワールドで、ペンギンと一緒に南極でお気楽生活を送っていたりもします。こうゆう、コメディタッチの短編がBelneさんは上手だと思う。

あとの作品は好き嫌い分かれるでしょうね。BelneさんはJuneに描いてた(描いてる?)人ですので、本格的な(?)ボーイズラブものもたくさん描いてます。……軽いノリを内包する、“ボーイズラブ”ってジャンルにBelneさんの作品をカテゴライズするのはちょっと失礼って気がしますが。特に『蒼の男』は。私は、延々とベッドシーンが続くものは基本的に苦手なんですが、Belneさんの『飾り窓』シリーズは好き。でも“耽美”とか“退廃”って形容詞をつけられそうな作品はあまり好みません(『蒼の男』を耽美という人もいますけど……)。

作品によって許容できるかどうかは大きく分かれるところでしょうが、もし手に入ったら、絵柄やジャンルによって敬遠せずに『蒼の男』だけでも読んで欲しいです。作者の作品世界に巻き込まれる快感が、きっと味わえるハズ。ハマってみれば、気持ちイイっすよ?

-2005.09.26-

このページのTOPへこのページのTOPへ

Copyright© 2001-2006 To-ko.All Rights Reserved.